静岡県警によると、2026年3月9日、富士山で登山をしていた外国人3人のうち2人が滑落する事故が発生した。
負傷した2人はいずれも外国人で、1人が意識不明の重体、1人が重傷となっている。
3人は「スキー登山のため」富士山を訪れたと警察に説明しており、山頂まで登った後、スキー板を使って下山しようとした際に転落したとみられる。
事故現場は宝永火口付近とされ、冬季の厳しい条件が重なった悲劇的なケースとして注目されている。
事故の経緯は次の通り。
3月9日午後、3人(男女を含む外国人グループ)が富士山に登山を開始。
目的は「スキー登山」で、山頂に到達した後、スキー板を装着して滑降する計画だったとされる。
しかし、下山途中でスキー板を外している最中に足を滑らせ、転落。
残った1人の女性が「2人が行方不明になった」と110番通報し、静岡県警と消防が捜索を開始した。
捜索隊は宝永火口付近で2人を発見。
いずれも意識はあったが、男性1人が頭部外傷などで意識不明の重体、女性1人が骨折などの重傷を負っていた。
発見時は低体温症の兆候も見られたという。
救助ヘリコプターで病院に搬送されたが、男性の容体は極めて深刻で、命に別状はないものの回復の見通しは立っていない。
残る1人は軽傷または無傷で、警察の事情聴取に応じている。
警察の調べで、3人はスキー板やブーツなどの装備を携行していたことが判明。
富士山の山頂付近は3月でも積雪が残り、気温は氷点下を下回る厳しい環境。
スキー登山(バックカントリースキー)は、登山道を使わず雪面を滑降するスタイルで、欧米やオーストラリアなどで人気だが、日本では上級者向けの極めて危険な行為とされている。
富士山の場合、御殿場ルートや須走ルートの一部で雪が残るが、公式登山道は冬季閉鎖されており、噴火警戒レベルや積雪量によっては立ち入り禁止となる。
静岡県警は「板を外している最中の滑落が原因とみられる」と説明。
スキー板を外す行為は、急斜面や岩場で転倒を防ぐための判断だった可能性が高いが、逆に安定を失いやすい。
宝永火口は急峻な地形で、転落すれば数百メートルの滑落となる危険地帯だ。
過去にも冬季の富士山で外国人登山者の遭難・滑落事故は複数発生しており、2024年冬には欧米人グループの低体温症死亡事例も報じられている。
この事故は、富士山の「オーバーツーリズム」と冬季登山のリスクを改めて浮き彫りにした。
2025年の登山者数は過去最高を更新し、外国人比率が3割を超えた。
円安やSNS映えを狙った訪日客が増加する一方、装備不足や知識不足による事故が相次いでいる。
特にスキーやスノーボード目的の「スノースポーツ観光」は、欧州や北米からのバックパッカーに人気だが、日本側の規制が追いついていないとの指摘がある。
富士山を管轄する環境省や山梨・静岡両県は、冬季登山を原則禁止するガイドラインを設けているが、法的強制力はなく、注意喚起に留まる。
登山届の義務化も進んでいるが、外国人観光客の遵守率は低い。
地元消防によると、3月に入ってからの救助出動はすでに10件を超え、多くが外国人絡みだという。
専門家は「富士山の雪は春先でも固く、アイスバーン(氷化した斜面)になりやすい。
スキー板でコントロールを失えば止まれない」と警告。
加えて、低酸素・強風・視界不良が重なると、判断力が急激に低下する。
今回のケースでは、3人グループで互いに支え合っていたはずだが、板外しのタイミングが致命的だった可能性が高い。
警察は今後、装備の詳細や登山ルートの確認を進め、事故原因の究明を進める方針。
重傷者の回復を祈りつつ、再発防止策として、外国人向け多言語での冬季登山禁止の周知強化や、登山口でのチェックポイント設置が検討されている。
富士山世界遺産登録から10年以上経過したが、「安全な登山文化」の確立は依然として課題だ。
この事故は、観光立国日本が抱えるジレンマを象徴する。
経済効果を求める一方で、自然の厳しさと文化の違いによるリスクをどう管理するか。
SNSで「映える」富士山の雪景色を求める訪日客が増える中、地元住民や救助隊の負担は限界に近づいている。
政府・自治体は、2026年度から本格的な「冬季登山規制条例」の検討を加速させるべきだろう。